F.L―extra―

次の日の、朝練のあと。


素早くジャージから制服に着替え、早々に部室を出ようとした俺に、高塚が話かけて来た。



「関!!昨日は悪かった…あんな風になると思わなくて。」


高塚は優しい。

優しいから、いつだってこんな風にいい子ぶる…



「…別にあんたが謝ることでもないだろ…ウザイ」

「でも、ごめん…」

俺が冷たく突き放すようにしても、なかなか引かない。


「…もうどっか行けよ、邪魔」

「…関!!待てって…」


立ち去ろうとした俺の腕を、高塚が掴んだ。


「…せよ」

「え?」

「離せよ!俺に関わるなよ!…もうほっといてくれ!!」



思わず、怒鳴った

部室が静まり返る



「高塚、どうしたんだよ」

「なんでもないんだ。俺がちょっと関驚かせちゃったみたいでさ。関、悪いな」


こんな状況になっても、やっぱり高塚はいい子ぶる…


俺を庇ったつもりなんだろうか…






母親が男と出ていくその瞬間、俺は同じ場所にいた。

ガキだった俺は、捨てられるのに気付かなくて必死に母親にすがった。

俺が掴んだ右腕を、母親は汚いものをみるような目をしながら振りほどいた。

高塚が俺の腕を掴んだ時、俺の頭の中にその記憶が甦った。

あの時、俺は“拒絶”というものを初めて知った



だから。




俺は誰にも縋らない

誰にも頼らない

誰とも深く関わらない


拒絶されるくらいなら、こっちから棄ててやる。




高塚は苦手だ。

俺のなかに入ってくるから…

どうせいざとなったら俺を拒絶するくせに。







俺は誰も信じない