「呆れた。あなた、何もかも忘れているのね・・・」

梓が僕を冷たい目線で責めているのが分かった。
でも、僕には心当たりがなかった。
「もういいわ。LeD LiNKという言葉は分かる?」
「それは・・・僕や俊や梓の所属していた、グループ名・・・」
「馬鹿でしょう、あなた」
バッサリ切られた・・・。
「そんな安っぽいものじゃないわ。LeD LiNKは、災害によって失われた私達の故郷から創られた、世界を変える最期の奇跡」

「ちょ、この子電波なのか?」
「黙ってくれ、梁瀬」

「あなたが私と組む気がないのならもういいわ。どうせこのまま何もしなければ世界が終わる。災害を馬鹿にしてる?」
「そんなこと、」
「ないわけないでしょう?あなたは、全て諦めた目をしている。かつてのあなたは見えていたはずなのに、今は見えていない」
梓の言葉は難しすぎる。
僕には、なにがどうなっているのかすら、理解できなかった。

「でも、私はあなたにしか頼れない・・・」

梓が僕の方へ、歩いてくる。
長くて綺麗な解かれたままの髪。
大きくて輝いている漆黒の瞳。

彼女は、僕の幼馴染で、初恋の相手だったはずだ。

あの頃の彼女は、無垢というか、純粋というか・・・。
こんなに表情が変わらないなんてありえないほど、喜怒哀楽を表情で表現出来ていたんだ。
なのに・・・。
いつからこうなってしまったのだろう。

5年前・・・。

そうか・・・。そうだった。
梓が全てを見透かしたように表情を失い、僕らの元から離れたのは丁度5年前だった。
僕はその後すぐに東京へ引っ越したのだけれど・・・。
その前に、忘れてしまった現実があるというのか?

「御琴、あなたに問うわ」

梓が芝生に座ったままの僕を見下ろす。
それだけでも、絵になるような気がした。
彼女ほどに輝く存在なんて、僕は知らない。
僕は今でも―

なら、

「あなたは私と来てくれるの?」

答えはもう、決まっているじゃないか。

「もちろんだよ」

僕は笑いかける。
梓がやっと、僕に会いに来てくれたのだから。