紅蒼ノ魔女(仮)

「トラ…」


「わかってるわ。」



気付いていないふりをしてその場を離れる。


ゆっくりと歩き出す。


その間にも小さく口を動かし会話を続ける。



「今までの話はきかれていたかな?」


「きかれてはいない、と信じたいけれど。

きかれていたら厄介よ。」



僕は今人間の姿をしてある。


襲われてもおかしくはない状況だ。


と、よく考えてみる。


僕は人間。


トラは魔獣。


……もう手遅れでは?



「ゴメン、トラ。」


「そうね。

ここは…」


「全力で殺る!」


「そうよね、きっと貴方には逃げるという選択肢はないのよね。」



いや、時と場合によってはちゃんと逃げるよ。



「さーて、悪いけど隠れてないで出てきてもらえるかな?」



地面に落ちていた木の枝を拾い上げ、投げつける。


ガサガサッと葉達がゆれる音がして再び枝は地面に落ちた。


もうすでにその場所にはいなかった。


だけど…



「逃げられるとは思ってないよね?」



そう言って、走り出した。


気配はまだ消えていない。


これなら追いつける。


走りながら武器になりそうな物を探していたら、いい感じの太さの木の枝…というか棒を見つけた。


本来僕の武器は剣ではなく、銃なのだけれど。


ないよりはマシということで。


よし、かなり近付いた。


これならもう大丈夫。


更に走るスピードを上げる。


すると背中が見えた。


斜め上に。



「うわー、猿だよ。」



木から木へと次々に移ってる。


どうしよう。


さすがに剣では対抗できない。


もう諦めて魔女になるか。


相手も魔女だし。


スピードを少しも緩めずに、手首に結んであるリボンをほどいて、髪を結った。