「硝子ちゃん、黒板、お願いしてもいいかな?」
 私が椅子に腰を下ろした瞬間、副会長に声をかけられた。
「は、はい」
 副会長―――サラキ ミウさんだっけ?
 一瞬、頭の中で“サラキ ミウ”が変換されなかった。
 あ、沙羅来 美羽副会長だっけ?


「硝子ちゃん?」
「あ、はい」
 生徒会メンバーの中で唯一“ショウコちゃん”と呼んでくれる先輩、じゃなくて副会長。
 
 頭の中で色々と考えていて、立つのが遅くなった。

「遅い!」

 本日2回目の会長からの「遅い」。


「う……すみませんね」
 渋々立ち上がり黒板へと向かう。

「これ、書いといてくれる?」
 黒板の横にスタンバイしていた副会長から渡されたのは1枚のプリント。
 ただ、このプリント……。
 1枚にしては情報量が多くないっすかぁ??

 今にも文句を言い出しそうな私に気がついたのか、沙羅来副会長が不自然なほどに自然に、誰にも気づかれないように私に囁いた。
「ごめんね、ちょっと今日の黒沢くん―――会長、機嫌悪いみたい…」

 は、はいぃ?
 これって、要するに……八つ当たり???
「だから、素直に従ったほうが身のためかもしれないよ」
 語尾に八分音符が付いていそうな明るい声で私に囁いてから、副会長は自分の椅子へ座った。



「遅い!何やってんだ?さっさと書け、のろま」

 出ました、本日3回目の「遅い」。
 落ち着け、自分!!ココで逆らったら後で何が起こるのやら……。

「は、はい!」
 会長の視線を背後に感じながら私は慌ててチョークを手に取った。