山荒の鳴く夜

夢でも見ているようだった。

姿形こそ違う。

しかし平助の目の前に立つのは、紛れもなく新撰組でも最強と言われた沖田の姿。

確かに彼は死んだ。

労咳で床に伏せ、晩年では庭に迷い込んだ黒猫すら斬れぬほどに消耗し、剣客として全うする事すらできなかった。

なのに何故…?

「くぅ…」

人外のシイは…いや人外だからこそ、シイには理解できた。

この京都には…人の生き死にが溢れすぎているのだ。

無念の中、志半ばにして、非業の中、死んでいく数々の命。

それらは成仏すら出来ず、別の魂すら呼び寄せてこの京に留まる。

行き場をなくした魂達は、時として似通った人間に憑依する。

そう、『長州派の沖田 総司』と呼ばれた椿に乗り移った、新撰組の沖田 総司のように…。