山荒の鳴く夜

乱れていた呼吸が整い、消耗していた体力が回復する。

俯き加減だった顔を上げた時。

「!!」

彼女は、高遠 椿であって高遠 椿ではなかった。

凛とした眼差し、幼ささえ残る表情、しかし触れれば斬れるような抜き身の日本刀のような気質。

土方 歳三、井上 源三郎、藤堂 平助、山南 敬助などが竹刀を持っては子供扱いされ、恐らく本気で立ち合ったら師匠の近藤もやられるだろうと言われた天稟の持ち主。

幕末で…いや、長い歴史でこれ以上の男はいないだろうと言われる天才剣客。

彼女は…いや、彼は愛染虎壱を天然理心流の平正眼に構え、静かに呟いた。

「新撰組一番隊組長、沖田 総司参る…!」