平助の命に別状がない事がわかり、椿は心の底から安堵する。

何故敵方の平助の無事に安堵するのか。

敵でありながら共感を覚えていた?

或いは女として、彼に恋慕の情を抱いていた?

どちらも納得できそうでいて、違和感を覚える理由だ。

「今度は娘さんが俺の相手になるのかい?」

平助を労わる椿の姿を見ながら、シイがニヤリと笑う。

「止しときな。壬生狼でさえ歯が立たないんだぜ?そこらの人斬り如きに俺は殺せねぇよ。さっさと尻尾巻いて逃げな」

嘲笑うかのように言う凶悪な人外。

その人外の目の前で、椿はユラリと立ち上がる。

「…高遠…?」

その立ち姿が、平助には見知った男の姿に重なって見えた。

…椿はゆっくりと愛染虎壱を抜刀し。

「敵前逃亡は士道不覚悟…!」

刺突の構えを取った。