山荒の鳴く夜

どことなく和やかな空気。

その弛緩した雰囲気が。

「……!」

平助が咄嗟に振り向いた事で一気に引き締まる。

「どうした、藤堂」

「気づいてねぇのか。高遠も剣客としてはまだまだだな」

「何…?」

平助の振り向いた方向を、椿も同じように見る。

…ようやく雲から三日月が顔を覗かせた事で、月明かりが僅かに照らす。

その月明かりによって、路地の角から影が伸びていた。

平助が注視していたのはその影だ。

鋭い何本もの細い影が、人影らしきものから伸びている。

明らかに人間の影ではない…!