山荒の鳴く夜

つまり平助は、山荒と遭遇したという事だ。

椿はまだ目撃さえした事のない、山荒と…。

「貴方の目から見てどうなんです?『藤堂さん』、山荒は人間の手に余る相手に見えましたか?」

「…いや…人外といえども血の通った生き物だ。仕留められん事はないだろうが…」

平助はまじまじと椿を見る。

「どうした高遠、その口調は」

「え?」

平助に指摘されるまで、彼女は自分でも気づいていなかった。

「敬語に、さん付けか…くくっ…」

笑いを堪えるような素振りの平助。

椿は思わず頬を赤らめる。

「な、何が可笑しいっ!」

「いや何…口調まで沖田とそっくりだと思ってな…」

「……」

釈然としない表情で、椿は口を噤んだ。

どうしたのだろう、今日の私は。

敬語など上役である桂にしか使った事などなかったというのに、よりによってかつての宿敵であった平助に敬語で語りかけてしまうとは…。