山荒の鳴く夜

「その呼び方はやめろ。高遠 椿だ」

娘らしからぬ鋭い視線で睨みつつ、椿は言う。

「奴に多くの同胞を傷つけられたと聞く。私は山荒の討伐を仰せ付かっているのだ」

「余裕があって結構なこったな。幕府はてめぇら志士から逃げおおせるのに必死で、化け物退治どころじゃねぇ」

今度は平助が皮肉たっぷりに椿に言い返した。

「ならば何故お前が山荒を探す?幕府の…或いは土方辺りの密命を受けているのではないのか?」

「言っただろう」

話を聞いていなかったのかと言わんばかりに、平助はまた大袈裟に溜息をついてみせる。

「俺はもう新撰組じゃねぇ…幕府も新撰組も、命令を聞いてやる義理はねぇんだよ」