山荒の鳴く夜

「この大萩屋が、長州派のアジトと知っての狼藉か?」

油断なく『眼(がん)』で射掛けながら椿が言う。

本来ならここが潜伏先である事は伏せておくべきだが、最早大局は志士側に傾いている。

知られた所で問題はあるまい。

「そうだったのかい…俺はメシ食いに来ただけなんだが…奥座敷に行こうとしたら、この兄さんが、大事な話の最中だからって俺を追い出そうとするもんでね」

細目の男は、そう言って倒れたままの彼の脇腹を軽く蹴った。

「だがまぁ、維新志士どもは天下取った気で京をのさばってやがる…このくらいは…」

もう一度脇腹を蹴る。

今度は肋骨が折れるほどの強さで!

「ギャッ!」

倒れたまま思わず男が呻いた。

「いいお灸って奴だろ」

細目の男は残忍な笑みを浮かべた。