生憎と椿は雑談しに来た訳ではないし、性格上無駄口もあまり叩かない。

「私を呼び出したご用件とは?」

「可愛げのない娘御じゃのぅ、愛想笑いくらい見せりゃあえかろうに」

苦笑いしつつ、男は椿を大萩屋の奥へと案内する。

…普通の客は入る事のない、大萩屋の奥座敷。

襖の向こうに人の気配があるのを、椿は人斬りの職業柄敏感に感じ取っていた。

「高遠が来ましたんで連れて来ました」

「通してくれ」

襖の向こうから声が聞こえる。

落ち着いた、理知的な感じのする声。

決して威圧的なものではないのだが、椿はその声だけで身が引き締まるような感覚を覚えた。

「失礼します」

襖を開けると。

「呼び立ててすまなかった」

そこには一人の男が座していた。