「私は一度フィルデラを訪れましたが、
お世辞にも美しい国とは言えませんな。」

「あなたの思う美しさとは違うのよ。
貧しくても人々の心は豊かだったわ。
むやみに木々を切り倒し、人間の住む場所を広げるようなまねはしなかった」


男には心なしか少女の瞳が潤んでいるように見えた。



「それは愚かというものでは?
文明の遅れた国が戦で敗北するのも当然というものだ。」

「私たちは平和に暮らしていたのに」



はき捨てるような言葉の後、
それきり馬車の中は静寂に包まれた。