たとえば、英国ならパブがあり、イタリアならワインを扱うエノテカといった店がある。

そこのカウンターでひとりで飲んでいても、隣の席にいる誰かと話をすることができた。

お酒を媒介にしたレストランは、その機会が広がる。

その楽しさが徐々にわかってきたんですね。

ただ、その道中、ひとつの疑問、落胆を感じていたのも事実なんです。

それは、人間というのはなんて愚かなものなんだろうということでした。

人間に失望していたと言ってもいいかもしれません。

というのは、肌の色、主義主張、貧富、宗教……いろんな違いでいろんないがみ合いがあって、それを目の当たりにしたからです。

「黒人お断り」という看板を堂々と掲げている店がありました。

日本人ですから、黄色人種に対する偏見も感じました。

一度、英国で店に入ろうとしたら、ドアボーイに、

「ジャパニーズ、OR、チャイニーズ?」

と聞かれ、

「なぜそのようなことを聞くのか?」

と問い返したら、

「チャイニーズはお断りだ」

とハッキリ言われたことがありました。

もちろん、私は頭にきて、すぐに踵を返しました。

どうして、人間が人間を見下すような行為を平気でできるんだ、という憤りがあったからです。

そういう偏見に異様に反発するというのは、母親を亡くしたあと、貧しさのなかで抱えたコンプレックスの傷跡かもしれません。