まあ逃げる気もないのだけど。
せっかく面白そうなのにもったいないし。
上手く生きていくなら、もったいない精神は大事だよね。

コンコンとドアにノック音が響いた。
ボクは体を起こし、ドアを見つめてみる。


「ちょっとドアを開けてほしいなぁ。」


聞き覚えのある声が聞こえてきた。
フェイだ。
食事を持ってのノックは可能だったが、開けるのは無理だったようだ。

ドアが困ってる人を見ると勝手に開いてくれたりはしないようだ。
うん想像の中で存在する便利なドアですね。

ボクはよっこらせと立ち上がり、ドアを開けた。
そこにはやはり、へにゃんと気の抜けた顔で笑ったフェイが立っている。


「あはは、ありがとぉ。」


両手を使って持っているお盆に気を配りながら、フェイは部屋の中を進んでく。
ボクはドアから離れ、先程と同じベッドに座った。

この部屋、ベッドとサイドテーブルはあるがイスがない。
お風呂とトイレはあった。
とてもじゃないが清潔とは言えない木で出来た宿屋。
こんなところ初めて泊まったよ。
当たり前だけどさ。

あまり物のない中でちゃんと存在してくれていたサイドテーブルに、フェイはゆっくりとお盆を置いた。
美味しそうな匂いが立ち込める。

ボクはお盆を覗いてみた。
二つずつあるが、どうやらメニューはパンとシチューらしい。
ボクの世界で言うならだけど。
見た目がそう見えるだけなので、中身と味を確定出来ない。
変な物が入ってないことを願う。

フェイはもう一つのベッドに座り、パンを手に取った。


「さてと、ご飯でも食べながらレオンの質問に答えようかぁ。なんでも聞いてねぇ。」


この世界に来たばかりのボクにとって、フェイの存在は非常に助かる。
別の世界のことは伏せて、色々と教えてもらおう。
今後のために。

ボクもフェイを見習って、パンを手に取る。
意を決してかじってみた。
…うん、パンだ。
ひとまず食べれる物があってよかった。
シチューは分からないからな。
ちょっと一安心である。

さてと。


「じゃあ、まず魔族と魔物についてお願い。」