「グオオォォ…!」
地鳴りにも似た感覚を持つ音が響く。
確実に何かの鳴き声。
ボクは自身の危機を感じ取る。
これは、そうとうやばい感じですね。
面倒臭がって敵とあんまり戦わずにボスまで来たような。
レベル全然足りないよ、みたいな。
でもおかしいな。
ボクはさっきの変な魔物のいた場所からそんなに進んでないはずだよ?
うむ、やっぱり誰かの空想で出来たゲームの常識はあてにならないね。
思い込みはよくない。
ごみ箱に捨てよう、ぽいっ。
そんなことより逃げた方がよかったりするかな。
デジャヴュを覚える案だな。
なんて、やっぱり今回ももう遅いみたい。
ガサリと大きな音をたて、茂みが揺れた。
勢いよく、黒く巨大なそれは姿を現した。
言ってみれば熊。
まあ、熊は普通角が一本なんて生えてないし、手足が六本だったりもしないけど。
しかもでかい。
ニメートルくらいあるだろう。
でも顔は熊かな。
「グルルル…!」
なんて考えてる場合じゃないね。
ボクは今まで歩いてきた道を急いで引き返した。
自身の全力で走る。
しかし後ろをチラリと見ると、しっかりついて来ている。
森の中、熊に追われる。
ボクは一曲の歌を思い出したが、今はそんなに明るい雰囲気ではないなと思い直す。
残念ながら、貝殻のイヤリングをつけたお嬢さんの気持ちは味わえないようだ。
息が切れてきた。
足にも少しずつ疲労が溜まっていくのが分かる。
このまま逃げ切るのは無理だ。
熊なかなか早いし。
ボクはふと思った。
弱い魔物なら倒せると猫は言っていたが、どのくらいまでが弱いのか。
もしかしたらこの熊モドキも弱いの部類に入るかもしれない。
ボクは走るのを止め、熊の方へ振り返る。
あのまま逃げていても結果は同じ。
熊はボクの少し前で止まり、立ち上がって咆哮をあげた。
近距離で聞くと耳がビリビリする。
よし食うぞー!みたいな意味合いなのだろうか。
しかし今がチャンス!
ボクは思いっきりの力を込めて、熊のがら空きの腹にパンチした。
バシッというミッドでボールを取ったときのような音がして、熊がよろけた。
効いてる…?
そう思った瞬間寒気がした。


