魔王様はボク


ゆっくりと音を立てながら、音の本体が姿を現した。

紫色のボールに三本角をつけて、目と口を書いたようなものが出てきた。

小学生の工作でしょうか。
いいえ、魔物です。

なんてCMの真似してる場合じゃないや。
ん?
理解されづらいかな。

その魔物はこちらをじっと見ている。
そんなに見つめられたら穴が空いちゃうよ、そんなわけないけど。

某ゲームに出てくる青い雫型の魔物に似ている。
角と色と形がちょっと違うけど。

見た目は可愛いという部類に近い。

…触ってみても大丈夫だろうか。
ふにっとかいくのかな。
ぶにゅっかな。

ボクは近寄り、そっと手を伸ばしてみた。

魔物は自身に近づいてくるその手をじっと見た…、かと思うとくわっと口を開けた。

全ての歯が犬歯。
見事な三角形による歯並びの良さ。
子供が書く怪獣のような歯。

白い歯の奥には赤い口内が覗いている。

ボクはすぐ手を引っ込めた。

魔物は噛もうと思っていたであろうボクの手がなくなったためか、口を開けたまま止まっている。

開けた口をどうしようか考えてるのかな…。
これはこの魔物が鈍いということなのか?

動かない。
まだ動かない。

それはいいけれど、相手が動かないためにボクも動けない。
きっと傍から見れば、長い髪の学ラン少女と口を開けたまま動かない魔物が見つめあっているという異様な光景だろうな。

うん、本当にどうするのこれ。
てか生きてる?
実は口開けたショックでギックリ腰起こして昇天とか。
あ、腰ないか。

もしかしてこんなくだらないこと考えてないで、今のうちに逃げた方が良かったりするのか。

本当に動かないんだけど。

よし、見なかったことにしよう。

しかし、何やら結論が出たらしく、ずりずりとボクに近寄ってきた。
無論、口は開けたまま。

タイミング悪いなあ。
今いなくなろうとしてたのに。

それにしてもショッキングだ。
これボクを噛む、否、食べようとしてるんだよね。

ボクは数歩後ずさりをした。

なお魔物は近づいてくる。