魔王様はボク


とりあえずここにいても仕方がない。

ボクは道なりに歩き出した。

地面が剥き出しの道を歩くなんて。
テレビで見る田舎に来たみたいだ。

時折、転がっている小石を蹴っ飛ばす。
それはコロコロと転がるだけで、特に何の変化も意味もない。

この後どうしようか。

町とか村を目指すべきなんだろうか。
しかし方角が分からない。
方位磁針とかあればいいのに。

ボクは本当に何も持って来ていないことを改めて自覚した。

服も髪も違うものになった。
ペンダントは猫から貰った。

食べ物も飲み物もない。
バックか何かに詰めて、何か持って来るべきだったんだろうな。
今更ながら考える。

着替えとか、お金とか。
ああ、でも通貨が違うか。

そういえば、ボクが行っていた病院から出された薬も持ってきてない。
記憶がなくなったあと、月一で通っていた病院。

…なんて薬だっけ?
うむ、忘れた。

記憶を戻すための治療なのか、詳しくは知らないけれど、精神科だった。
行くのがちょっと躊躇われるやつね。

ん?
記憶を戻すための治療って、精神科?
…まあいいや、考えない。

過去よりも今に目を向けることにしよう。
新しくゼロの状態で始めるといえば、なんとなくかっこよく聞こえる。


「魔物とか出て来ないかな。」


周りに誰もいないので自分と話してみる。
つまり独り言。

猫の話を聞いてなかったわけじゃないけど、一度魔物を見てみたい。
今後にも役立つだろうしね。
百聞は一見にしかずって言うじゃないか。

なんて考えていると、少し前方に位置する茂みがガサリと揺れた。
思わず足を止める。

お、これは魔物フラグだな。
チャララララララーンとか言って、なんとかが現れたみたいな。
注意、ボクは別にゲーマーなわけではありません。
まあ、なんてどうでもいい注意なのかしら。

しかしながら、少し不謹慎だが楽しみだったりもする。
ほらほら、出ておいでー。

ガサガサと茂みが音を立てる。