猫は本を仕舞うと、自分が手がけたボクの服装を見回した。
もう十分な気がするが、猫はどこか不満そうに渋い顔をしている。
そして何かに気づいたのか、はっと顔を輝かせた。
「ついでにこれもサービスニャ!」
猫は突然そう言うと、空中で横にくるりと回った。
再び一瞬視界が黒い光に覆われる。
光が消えたと知覚する前に、ズシリとした重さを後頭部から感じた。
ボクは何かが頭に乗ったのだろうかというちょっと勘弁してほしい想像と共に、自分の右手を回してみる。
何が起こったのかはすぐに分かった。
髪が伸びている。
視覚でも確認してみた。
やはり髪が長くなっている。
しかも膝まである。
黒色は変わっていないが、長さが随分な変貌を遂げていた。
もともとストレートだったためか真っ直ぐな黒髪が、ボクの動きに合わせて揺れる。
「やっぱりニャ!君、髪長い方が似合うと思ったんだニャ。」
確かに心の底辺らへんで長くしたいとボクも思ってた。
うん、それにしても。
「長過ぎやしないかい?」
長過ぎだよ。
肩までとか、長くて腰までで良かったのに。
「…言わないでほしいニャ。張り切り過ぎたんだニャ。」
おいおい、しっかりしてくれよ。
ボクがちゃんと受け答えしてたからだろうか。
やはり適当にあしらうべきだったかもしれない。
飴と鞭。
今からはちゃんともっぱら鞭の方向で話すことにしよう。
嘘だけど。
そんなことして今更やめるなんて言われたら堪ったものじゃない。
ここまで期待させてるのに生殺しだよ。
また涙目になられても対処出来ないし。
それにしても、今のボクは来たときより随分と様子が違ったものだ。
今の姿で凜音の前に現れでもしたら、神隠しにあったなんて誤解をされかねない。
新聞の一面を飾ってしまうじゃないか。
神隠しにあった少女、何故か髪は異様に伸び、学ランを着て普通に帰宅。
これはまずいな。
阿呆らしさしか感じない。
全国の読者に訝しげな表情を浮かべさせることが出来るだろうな。
閑話休題。


