「…本当に真面目にちゃんと聞いてほしいのニャ…。」
かなり切実さが分かる声で言われてしまった。
クラスの子とかにこんな声で話し掛けられたら焦る。
何故かこの猫は弄りたくなってしまうのだよ。
ボクは仕方なく、真面目に聞くと言う意志を見せるために正座した。
「ちゃんと聞くよ。どうぞ。」
「ニャ。」
よろしいとでも言いたげに猫は頷く。
そして喉の調子を整えるかのようにゴロゴロと鳴いた。
「ニャーは確かに君を違う世界に連れて行くニャ。だからこそ、対価を頂くニャ。」
対価。
猫個人に渡す対価ってことだろうか。
二度と帰れないのは世界に対する対価。
送って貰うのは猫に対する対価。
なんだか払いっぱなしではないだろうか。
これに見合うだけのものが別の世界とやらにあるのか些か不安になる。
嘘だけど。
「ニャーが貰う対価は君の右目の視力と、両目の黒色ニャ。その二つさえ貰えればいいのニャ。」
視力と色?
そんなものが欲しいのか。
視力ということはつまり、失明だろう。
右目のみなら、まあいいかなという気になる。
しかし、問題は目の黒色。
色が無くなったら何色になるんだろう。
白?
…まさかね。
「常に白目向いてるみたいな目になれってこと?」
想像すると怖い。
白目のなかに白目。
真っ白。
うん、もしそうならかなり困る。
この間の映画のゾンビじゃないか。
「ニャーが適当に決めとくニャ。白目にはしないから安心してニャ。」
おや、それは安心。
…いやでもまさか虹色とかにしないよね。
そんな常にファンシーお目目も嫌だ。
結局猫任せになるわけだ。
この不思議な空間は、ボクが何一つ及ばない世界なわけだ。
ここでは猫がボクより上の立場に位置しているのかもしれない。
まあ気にしないけどね。