魔王様はボク


あれ?
また月を見ている。

何が好きなんだろう。

優しいあたしの姉。
昔の記憶がなくても構わない。
彼女は確かにあたしの姉。

かっこよくてあたしの憧れ。
ちょっと変だけど、気になる程じゃない。
面倒臭がりだけど、なんだかんだで勉強も運動も出来るし。

あたしはこうはいかない。
だから勉強しなきゃ。
明日は模試なんだから。

数学がだんだん呪文に見えてきた。
苦手だなぁ…。
数式が覚えられない。
こんなの覚えなくても生きていけるよって思ってしまう。

なんてあたしが唸っていると、いつの間にか戻ってきていた麗音があたしの机にプリンを置いてくれた。

ほら、優しい。


「ありがとう。」


あたしがお礼を言うと、麗音は嬉しそうに微笑んだ。

かっこいい…。

本当にあたしと同じ顔なのかな。鏡で見るとそっくりだけど、実はあたしの顔はお面だったりして。
うーん、我ながら嫌な想像。

麗音は机に座った。

ほら、あたしも勉強しなきゃ。
麗音はきっとやるんだから。

明日の模試が終わったら、最近人気のカフェに行きたいな。
パフェが美味しいって話だから。

そんなことを考えて顔が緩む。

ふと麗音を見ると、机ではなく窓際にいた。

また月を見るのかな。

月を見ている時の麗音は邪魔しちゃいけないような気がするから、絶対話しかけない。

あたしは再び机の上のテキストに視界を戻そうとした。

そのとき。

麗音が、え?
飛び、降りた?


「麗音っ!?」


慌てて窓に駆け寄る。

嘘だよね?

下、見たくない。
嫌だ。
でも、見なきゃ。
嘘だと証明するにしても、見なきゃ。


「…え?」


誰もいない。

夢?
幻覚?

麗音はいない。
何もない。

あたしは確かに麗音の持ってきてくれたプリンを食べた。
美味しかった。
夢じゃない。

でも、いない。

どこなの?

ああ、嫌なくらい月が綺麗。

あたしは、まるで月に吸い込まれたかのようにいなくなった姉の姿をただ呆然と探すしかなかった。