歌姫〜ウタヒメ〜

 
 
 
紡がれる詩が伝える『想い』は彼女によって"生"を与えられたかのように、強く、時に儚く、聞く者の心に深く染み渡る。
思わず耳を傾けてしまう程、綺麗な"声"が確かにそこに存在していた。
 
 
そしてそれは偶然にも聞き手となった少年の心を魅了することとなる。
 
 
しかし、それととほぼ同時。ぴた、と前触れもなく止まるメロディー。
そして数秒間の間の沈黙の後、歌声の主は先程屋上に侵入してきたであろう少年を恨めしげに見下ろした。
 
 
「……遅い。いつまで待たせるつもり?」
 
 
 
少女は一目で『目的の人物』と分かった彼に向けて冷徹に言い放つ。
それはつい先程まで流れていた優しい歌声とは正反対。凛とした、冬の吹き荒れる風のような冷たさだった。
 
 
 
「仕方ないだろ。生徒指導の鬼教師に追いかけられて散々だったんだから」
 
 
心底嫌そうに顔を歪め悪態をつきながら、少年は梯子に手を掛ける。
少女は金色の髪を靡かせながらそれを登る少年に冷やかな視線を送るが、少年はそんなことでは動じず軽やかな足取りで少女の元へ辿り着くと、その隣を陣取り目を細めて笑顔を作った。