大きな瞳に映したのは、微かに見える両親の重なった身体。
何故、何故、とエルシスは頭の中で繰り返す。
「愚かな……」
男は呟くと2つの折り重なる死体に手を翳した。
「全てを灰にする赤鳥の炎よ、ここに力を示せ」
淡々と唱えられた魔術の言霊。
それは躊躇いもなく2つの身体を燃やす。
その光景はエルシスを奮い立たせた。
「やめて!」
愛する存在を轟々と燃やす炎が、エルシスの瞳に映る。
男は突然介入してきた小さな影を見た。
「あぁ、お前がエルシスか」
「どうして殺したの!」
「愚問だな。お前の両親は殺されるべき人間だったのだよ」
男はそう言うと嗤った。
エルシスは男を見上げた。全身を黒で覆っており、その顔すら見えることはない。
「うそよ……」
「事実だ。……そしてお前もその1人だがな」
言い終わるのと同時に、男はエルシスに向けてまだ血の乾ききっていない剣をエルシスに向けて動かした。
エルシスは小さな身体を駆使して、なんとかその一撃を避ける。
しかし避けて動いた場所が悪く、エルシスは扉から反対のところに来てしまった。これでは逃げることは難しい。
男はその様子を嘲笑し、エルシスに詰め寄って再び剣を構える。
「さぁ、楽に死なせてやる」
ヒュッと、剣に風が纏う。
エルシスは再び、恐怖に慄いた。