クオンはこの不等な秩序を粉々に壊してしまいたかった。
「くだらない」
掠めるようにクオンの唇から零れた言葉は、人の波に攫われてしまった。
再び歩き出したクオンを呼び止める声がどこからともなく聞こえ、クオンは立ち止まった。
「クオン!」
声の主を見つけるのに大した時間は有さなかった。
周りより頭一つ分大きい姿は、とにかく見つけやすい。
「ケイン」
赤銅の短髪に、えんじ色の瞳。意思の強そうな眉。少し焼けた肌。左目下の傷。そして逞しい体つき。
それら全てを統合したのが、クオンを呼んだこの男、ケイン・スコット。
クオンの唯一の友であり、良き理解者でもある。
「お前どこに行ってたんだよ」
「あー……裏庭」
「ったく。行くなら授業の用意をしとけ。……ほら」
「教科書……?」
「他に何に見えるんだよ。次はイバル教授の講義だろ」
あぁ!とクオンは声を張った。
そういえば今日の午後の講義はそんなような名前の教授の講義だった気がする。
「お前なぁ~」
やや呆れ気味の声が頭上から降り堕ちた。
「そうやってボーッとしてるから、アホ貴族が調子に乗るんだよ」
「ボーッとしてなくても同じだよ」
きっぱり言うとどうしようもないとケインが頭を垂れる。

