クオンは授業の予鈴を知らせる鐘に慌てて立ち上がり、裏庭を突っ切って、多くの生徒が行き交う中庭に出た。

中庭と行っても、ここイノセントラ学院(略称をそう呼ぶ)では規模が違う。

イノセントラ帝国の亡き傭兵王をかたどった像の噴水を中心に、七つの道がそれぞれ開かれている。

道と言っても、幅8メートルはある。
そしてその先端にはイノセントラ学院の最新の魔術教育の機関が備わっている。

伊達に、帝国一の魔術教育学校ではないと言うことだ。


しかしクオンはあまりこの場所が好きになれなかった。

多くの生徒が貴族であり、おまけに今の代には王族が在学している所為で、お高く留まっている者が絶えない(実際そうなのかもしれないが)。

それだけならまだ良いのだが、彼らの場合はそれだけで収まらない。

いつからか、この学院にはそういった生徒により無意識の内に身分秩序が生まれた。

生徒の立場は生家の権力や財力、はたまた自身の魔術能力指数で決まる。

それらが優れていれば優れているほど、生徒達の間で優遇される。

そんな決まりは時には生徒同士のいがみ合いに繋がったり、立場的に弱い者が惨めな思いをすることもある。



クオンは、それが堪らず嫌だった。



イノセントラ学院に築かれた、小さな国家的秩序。

まるで実際のイノセントラ帝国を短絡化したみたいで、馬鹿ばかしい。



「はぁ……」



溜め息を吐いたクオンは授業に向かう生徒達に視線を投げた。

ほんの少し見ただけで、貴族と平民の見分けがつくのに思わず嗤った。

平民がイノセントラ学院に入学できるのは極少数。

理由は金銭的なこと、試験を受ける為の学習をする環境が関係する。