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イノセントラ帝国魔術学院。
帝国直属の魔術を扱う人物の育成を行う国内最大の教育機関。
幾人もの重要職人物を輩出しているこの学院は、魔術師の登竜門とも言われている。
この学院に入学するにはそれ相応の努力と実力を有する。
また学院には多くの王侯貴族の子息息女が通っていることで有名だ。
――そこに、一人埋もれた姿があった。
広大なイノセントラ帝国魔術学院の敷地の一角、裏庭。
綿密に構成された薔薇園の薔薇に囲まれ、四肢をベンチに預ける少年。
静かに閉じられた瞼は、一向に開かれる気配はない。
時々吹く柔らかな風が、少年の揃えられた鷲色の髪をさらう。
「……ん」
頬を擽る風に、少年は微かにたじろぐ。
同時に学院内に鐘の音が響き渡る。
「あぁ!」
唐突に鳴り響いた鐘に、少年は上半身を飛び上がらせた。
開かれた少年の紺碧の双眼は、眠く揺らいだ。
少年の名前を、クオン・ベルベットと言う。