君の長い髪がふわりと揺れる。
なあ、何故?そんなに声を上げて、君は泣いているのだろう。
 
 
繰り返し、繰り返し、俺の名を叫ぶ君を誰かが力ずくで押さえている。
華奢な身体で精一杯手を伸ばしくれたから、俺もそれに応えてみたけれど、無情にも君に届くことはなかったんだ。
 
 
当たり前か。だって、これはシナリオの決まった物語。幾度となくみた、夢。
靄がかかっているせいで鮮明でない世界も、回数を重ねる毎に少しずつ視界がはっきりしているような気がする。
 
 
けれど、ごめん。俺、もう忘れた。自分の名前も、自分の存在意義も全部、全部忘れてしまったよ。
 
 
 
それから、君の名前は何だったっけ?
 
 
何度も思い出そうと思ったけれど、それを拒絶するかのように頭痛に襲われる。
だからさ、俺、知らないんだ君の名前。
 
 
知っていたら思い切り君の名を叫んで、――それから、それから。
力の限り手を伸ばして、これからの待っている残酷な未来にだって逆らってみせるよ。だってさ、君の名を呼べば離れてしまった君の手の平に届く気がするから――なんてな。
 
 
 
ああ、そうだ。俺にも、一つだけ覚えていることがあった。
それは、一番最初にこの夢をみたときのことだっけ。
 
 
真っ白で殺伐とした何もない世界から目を覚ましたときに、初めて出会った『笑顔』を俺は決して忘れない。
それは、今はもう亡き人のことだから余計なのだろう。
 
 
皮肉なことに、アイツが居なくなってからというもの、より鮮明な夢をみるようになったなと思う。
だから、ついつい、願ってしまう。
 
 
――夢の中の君が、アイツだったら良いのに、ってさ。
 
 
 
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