失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿




店を開けるとまずその鼻をつく甘い香り。


ついつい大きく息を吸い込みたくなる。


大きなガラスのケースに並んでいるのは美味しそうにきらきら輝くケーキたち。


店の奥からはカシャカシャと泡立て器とボウルがこすれる音が聞こえてくる。





そしてそのケーキを作っている無表情で驚くほど整った顔のパティシエ。









やめよう。


これ以上想像するといろいろ面白いことになる。


「食べに行ったことはないけど、あいつ、あの顔だから客よせにも使えるよな」


「そうだけど……」


一応、陽はあたしの好きな人なのだから、客よせに使われているというのは複雑。


でもたしかにあの顔は客がつれる。


「これで全員」


武から聞いた今のみんな。


あの別れから五年がたって、それぞれに自分の夢をかなえた。


忙しくて、毎日は会えないと思う。


それでも彼らは変わらないと思う。


人一倍ばかで、人一倍熱い。


あたしがいない五年間を見ることはできないけど、今からは見ていきたいって思う。


多分あたしはみんなを見守っているつもりで、みんなに守られていたんだと思う。