歩いて行ってもよかったが、今日は佐伯さんが譲らなかった。
流れていく景色を見ながら、思い出を探る。
あ、あそこで大雅が百円拾ってたなとか。
あ、あの辺は颯太君に偶然会ったなとか。
大翔は昔ここで喧嘩したらしいとか。
優真君はこの辺でお年寄りを助けたらしいとか。
陽はこのお店のシュークリームが一番好きらしいとか。
この町にはあいつらが溢れている。
「つきました――」
「ありがとう。ここで待ってて」
「はい」
荷物はバックしか持っていかない。
“居なくなる”ことに実感を持ってもらうために、いらないけど、重いだけだけど、スーツケースも持っていこうとも思ったが、やっぱり邪魔だった。
最近来ていなかった他校の校舎の前で亜美は少し立ち止まった。
――――怖い
決意すらも揺らぐ程の緊張感。
亜美は息を吸って、彼らのもとへとむかった。



