早紀の家は春のホテルからあまり離れていない。
ホテルを後にした亜美は、早紀に電話をした。
すぐにつくことを伝えた。
「これでよし、」
亜美はしばらくの間、窓から景色を見ていた。
きっとこの景色を見ることはしばらくできないから。
目に焼き付けとこう。
あいつらと一緒にいるようになってからは目に焼き付けときたいことがふえた。
「亜美さん、つきました」
気が付いたら早紀の家に着いていた。
「ありがとう、待っといて」
「はい。行ってらっしゃいませ」
車を降りた亜美はすぐにインターホンをならした。
「はい」
「深瀬です」
「深瀬様ですね。伺っております。すぐに扉を開けます」
「はい」
そんな会話からたった数秒でドアが開いた。
早紀の家は華道の家元。
大きな日本家屋。
立派な庭。
カコンカコンとなる獅子脅しは風流だが、今は冬だから少し寒い。
家の中ではお香が薫る。
――これは早紀の匂いだ
早紀が着ている服から薫る匂いは、この匂いだ。
詳しくない亜美には何の香りかさっぱりだが。



