連れていかれたのは奥の部屋。


「支配人を呼んでまいりますので、しばらくお待ちください」


「はい」


綺麗なお姉さんは笑顔でそう言いながら部屋を出ていった。







しばらく待っていると、ドアのノックもなく春が入ってきた。


どうしてあたしのまわりの男たちはノックをすることが出来ないんだよ。


「一応ノックくらいしなさいよ…」


「亜美に使う気遣いはない」


「名言っぽく言っても無駄だ」


さっきのお姉さんがいない。


だから春は“本当の春”だった。


「ここにいたら顔が疲れる」


なーんて言っているが、春が会社をつぐためにたくさん努力しているのは知っている。


彼は誰よりも頑張り屋だ。


「今日は?」


「アメリカ行きの挨拶に」


春が笑った。苦笑いだけど。


「まぁ行きたいって言ってたからね。前から」


「まぁね」


昔、言ったことがある。


“アメリカで学びたい”と。


そこにはあたしの欲しい知識がいっぱいつまってるんだ。


異国の価値観を学ぶのは、経営者にとって必要不可欠なものだった。


今、亜美が一番欲しいもの。