自然と涙が頬を伝う。
「……わ、すれて、た?」
そんなの、ありえない。
だってあたしにはちゃんと階段から落ちた記憶があるんだから。
その亜美の動揺を感じ取ったのか、瑠伊が口を開いた。
「あるらしい。人間の脳ってもんは案外単純なんだとさ。亜美はさ、分かってたんだろうね。母さんが自分を守って死んだってこと」
だからこそ忘れたかったんだろう。
「誰が、知ってるの?この話」
今までそれらしいことを匂わせることもせず、ただ一生懸命亜美を守ってくれたのは隆や瑠伊ばかりではないはずだ。
「佐伯と、武君と春君早紀ちゃん」
春君と早紀ちゃん。
懐かしい名前が亜美の耳に届く。
2人は亜美と武の幼なじみだ。
「それとあのヤンキーたちも知ってる」
「陽たちも?」
驚いた。
驚きを通り越して、感激だ。
「何時の間に?」
「忘れた」
そっけない返事。これは言いたくないということなのだろう。
瑠伊は意味のないことはしないと信じている。
だから無理に聞こうとは思わなかった。
亜美から遠ざけるために言ったなんて言えない。



