なのに、そいつは逃げてはくれなかった。
――あーあ、逃げてくれなかった……
笑顔のまま近付き、呆然と怯えているその青年の腹を思いっきり殴った。
「っク」
弱い。
たった一発殴られたくらいで気絶しやがった。
「……大翔、何やってんだよ!」
たまたま、多分大翔を探しに来たのであろう大雅が、気絶してしまっている青年をもう一発殴ってやろうというと腕を振り上げたときにあらわれた。
「……んだよ」
「大翔、お前は無駄なことはしないやつだと思ってた」
今だってそうさ。
無駄な事は嫌いだし、やりたくもない。
嫌いな言葉は“努力”な、俺。
何もかもどうでもよくて、自分にも感心が薄いのが俺。
そのくせ、大雅たちに、陽たちか、離れていくのがすごく怖いのに何もできないのが俺。
「これは“無駄”に入んなかったのか?頭冷やすんじゃなかったのか?」
倒れている奴を指差して、大雅は大声を出した。
「無駄……だよな」
分かってるのに、分かってるのに、分かってるのに。
どうして亜美を傷つけた陽が許せないんだろう。



