トントン


それは優雅に響いたノックの音。


音がした方……つまり、ドアの方を見れば、そこにいたのは、知らない男。


開けたドアにもたれかかる姿がとても上品で、優雅だ。


一発で分かる。
“金持ち”だって。


そしてその人物に大翔は見覚えがあった。


――あのときの


「お邪魔するよ」


顔に似合う、綺麗で、淀みがなくて、それでいて透き通った低めの声。



「誰だ」


陽の目が一気に怖くなる。


「俺?まぁいいじゃないか」


そんなふうにはぐらかされても陽の機嫌が悪くなるだけだ。


「……金井、武…………さ、ん」


大翔は目の前の人物に見覚えがあった。


そしてそれが誰なのか、一気に思い出した。


一回思い出してしまえば不思議になる。


“なぜ俺はこの人のことをわすれていたんだろう”


と。


こんなに存在感がある人、一人しかいないよ。


「おい大翔。金井武って誰だ」


陽は自分の縄張りに侵入してきた男にわかりやすく威嚇している。その証拠に、金井武から目を離さない。

「……陽、下がれ」


今の俺にはこう言うしかできなかった。