それでもあたしは“寂しい”なんて言ったことはない。
だって困らせるだけだもん。
多忙で、しかも責任に押しつぶされそうな状態の父親に、我儘何て言えなかった。
ガタン
箸を持ったままぼーっとしていたら目の前で音がした。
「めずらしいね」
見れば目の前には椅子に座った佐伯さん。
もともと一緒に食事をすることが無い。
だから佐伯さんが目の前に座ったことにすごく驚いた。
「亜美さん。私には我儘なんて可愛らしいこと言ってもいいんですよ」
嫌味だ。
だって笑ってるんだもん。
満面の笑み。
あれだろ。
馬鹿にしてんだろ。
「アホ面……可愛らしい顔ですね」
「アホ面って聞こえたからな」
無視だ。無視。
佐伯さんを無視してあたしは止まっていた箸を動かしはじめた。



