――今が思い出になっていくのが、1番怖い。


心の奥底に生まれた、漠然とした不安は、あたしの心を揺らすんだ。



時は、3月。

卒業式も終わり、後は高校の入学式を待つばかり。


そして、今日はクラスの皆に会える、最後の日だった。




……でも。



(なんにも、いえなかった。)


本当に最後だったのに。


好きな相手に告白やメアドを聞くどころか、話し掛ける事すらできなかった。


淡い、淡い恋は、もうすぐ終わりを迎えるんだ。


それはまるで、彼の下へと導く灯が、消えちゃうみたいに。



――…彼の、ふとした瞬間の優しさが好きだった。


楽しそうに部活をする姿が好きだった。


真剣な顔も、笑った顔も、ちょっと不機嫌な顔も。


みんなみんな、大好きで、愛しくて。



……あぁ、もう、私は彼を眺める事はできない。


自分の恥ずかしがり屋な性格を、呪うよ。




(風が冷たいな…)


勢い良く歩道橋の下り坂を、自転車が進む。


すっかり暗い夜の町は、どこまでも私を責め立ててた。


頬を凍りつくような風が撫でる。


最早感覚なんて、無いに等しい。


それでも、この痛みは拭えない。



――どうか。


どうか、とこの夜風に願う。

私の想いも、完全に凍らせて閉じ込めて、二度と溶けないように、粉々に砕いてほしいと。



……そうすれば、きっと辛くなんかなかったね。



でも。


『……深山』


キミの声は消えない。


離れてなんか、くれない。



――私は、板倉が好きだった。



ただ伝えたかったこの一言が、私を苦しめて、苦しめて。


でも、それすらもいえなかった私は。




どうか、あの人への想いを凍らせてと、風に乞うしかないのだ。







――――刹那に願ったのは、キミへの想いを断ち切る事。







Fin