午後の陽気は鬱陶しい。特に窓側から二番目の席にいる俺の背中には容赦なくその熱い光が突き刺さる。加えて、いくら上を脱ぎYシャツになろうとも、学ランは黒い。光を吸収し、暑さが更に増す。俺はズボンを膝が出るくらいまで捲くった。更に風に靡くカーテンの先と先を結んで、光が漏れ出さないようにする。

「あっついよね、今日。」

作業を終え席に着いた時、隣の席のスギサワがこそっと話しかけてきた。彼女はカーテンを閉じても、僅かに身体に陽の光が当たっていた。このご時世、学校中の女子がブラウンや金色に髪を染色している中で、彼女の黒髪はかなり貴重だと勝手に思っている。実際は他にも染色せずにいる奴はいるが、なんだろう、彼女ほど綺麗な黒髪はないのだ。光が反射したそれは、より一層眩しくて、俺は思わず目を細めて返事をした。

「ホントにな。普段ならその席は最高だけど、この時期だけはつらいな。」

言うと、彼女は柔らかく笑って首を振った。

「ううん、熱い分風が涼しいの。ナオフミ君の所には、風、吹いてこない?もう少し窓開けようか?」

「いや、くるけど。ずっと吹いてるわけじゃないし。」

「そう?・・・まぁでも、心配があるとすれば、陽にあたり続けて日焼けするのはやだなぁ。」

そう言って彼女はクスクス笑う。

何故だか俺はスギサワと話すのが苦手だ。いや、彼女の持つ独特の雰囲気がだめなのだろうか。人と話をする時は相手の目を見て話すものだが、何故だが彼女に対してだけ、俺は顔を逸らしてしまう。

ふっと、右斜め前にいるタクミが俺をちらちら見てにやけていた。その視線を今度は右に向けると、タクミの三つ隣、廊下側から二番目の席にいるユタカ、その後ろのアキラも同じくこっちを見てニヤニヤしていた。

阿呆共は後で殴るという事にして、俺はスギサワのさっきの言葉を思い返し、ちらっと、まるで盗み見るように、制服から覗く彼女の肌の色を見た。透き通った白。と言うとありきたりか。決して健康的な白ではないが、なんだろう。その白は、俺の好きな白だった。

「…俺としても、それは困るな。」

「…え?」


言ってからはっとするのと、彼女が声を上げたのが同時で。
彼女が声を上げたのと、例の教師が教室の扉を開けたのが同時で。
例の教師が扉を開けたのと、タクミ、ユタカ、アキラの三人が慌てて前を向くのが同時で。