「…最近、あんまり連絡くれないね」
彼の前には、彼女が立っていました。彼は偶然にも、駅の改札口で、彼女とばったり出会ったのです。彼も、彼女も、目を大きく見開いて、驚きを隠しきれていませんでした。久しぶりの再会も、素直に喜んでいたのは一瞬で、しばしの沈黙の後、先ほどの言葉が、彼を責めていました。例え、彼女にその気が無くても、彼にはそう聞こえたのです。
「うん。…最近すっかり使いっぱしりでさ。…今、仕事帰り?」
苦笑いを浮かべ、それでも慣れない気を使うという行為を行うあたり、彼の誠実さがうかがえます。長年の付き合いからか、彼女はそんな彼にやっぱり苦しそうに笑顔を向け、肯定します。
「うん、私もここんとこ忙しくて…。そっちは?」
「こっちも、今帰りだよ。…うち、来てくれないかな。折角久しぶりに会えたんだし。」
「……うん、いく。」
まるで、何十年も会っていなかった友人と、どんな風に話していたか探りあうような居心地の悪い会話でしたが、それでも彼女は久しぶりの恋人との逢瀬に喜んでくれている、と、彼は感じたのでした。それと同時に、自分が安堵していることにも。
「よし、じゃあいこっか。」
彼の言葉を皮切りに、二人は漸くお互いの距離を詰め、改札をでて歩き始めました。