「……」 頭上から、毛むじゃらの黒い物体が、顔を覗き込んでいた。 「にゃー。」 思わず礼が唱えると、その物体は心なしか煩わしそうな顔をした。 そこにいたのは、少しくたびれた猫だった。 礼が懐かしく思えたのは、実家に猫を飼っていたからだ。 息をかけて人を起こす、その感触ですぐにわかった。 身体を起こし、猫の方に傾ける。 猫はふぅっと、息を吐いた。 「”にゃー”じゃないわい。」 猫は目を細め、にやりと笑った。