そんな彼方にはまったく動じず、藤岡先生はそのまま笑顔で、







「いや、いいんだよ。君には色々役立ってもらわないと困るからね。『使い物』にならないのは困る。」







毒返し。
すると彼方が『あははは』と笑い出した。







「相変わらずクズな人間性が素晴らしいですね。…あ、そう言えばあなたの後ろにいつも控えてる秘書の芭悠里はどうしたんですか?」







「あぁ。…芭悠里か。彼女は別の仕事で出張中でね。」







藤岡先生の隣にはいつも優秀な秘書、芭悠里さんがいる。






「へぇ…そうですか。」






彼方はそう言って歩き出す。






「そういや、君は芭悠里からはずいぶん慕われているようだね。」







「…慕われてるかは知らないけど、芭悠里は観奈の世話役だったからね。一応僕とも面識が強かったし。」






「そっか。そうだったね〜。」







「まぁ、そんなことよりも有能な秘書がいないとあなたは無能なんですから、せいぜい気をつけてください。では僕はこれで失礼致します。」







そして目の前にいた藤岡先生の横をスッと通りぬけた瞬間、







「待ちたまえ。」







藤岡先生は去ろうとした彼方をすぐさま止める。







「…まだ何か?」







足を止めた彼方は横目で藤岡先生を睨んだ。







「わかっているだろ。君に話す事があるとしたら1つだけだ。」







「…分かっていますよ。」







「あれ〜?分かってる割には、観奈のこと野放しじゃない?」







「……。」







彼方は押し黙ると、藤岡先生は『はぁ〜』と大きなため息を大げさに吐いた。