あの時みたいに道は凍っていなかったし、今の俺はやや細身だが少しの衝撃で転ぶこともなかった。
代わりに、ぶつかった相手が尻餅をついた。
やや小柄な女性。
黒い長い髪が綺麗だ。
下を向いているため、顔は見えない。
「すいません、大丈夫ですか?」
転んだのは確実に俺のせいなので、女性に向かって手を伸ばす。
女性は小さく、「大丈夫です」と言って、俺の手を取った。
女性を立たせて、もう一度何気なく顔を見た。
「いっ……!?」
ああ、そりゃもう心底驚いたぜ。
心臓が止まるかと思った。
夢か、と目を擦ったり頬を叩いたりした。
でも消えなかった。痛かった。強く叩きすぎた。馬鹿だった。ごめんなさい。
だって、俺の目の前に立っているのは―――
紛れもない雪夜さんだったからだ。

