息が上がる。
鞄が跳ねる。
改札をくぐって階段を一気に駆け登った。

遠ざかる音に膝に手を付き、息を整える。



「さい、あく……はっ、は」



走っている間は時計を見る余裕がなかった。最後に見たのは学校の職員室を出たあとすぐの、約10分前だ。

15分間隔で出る最後の電車はホームに着いたときすでに遠くにしか見えていなかった。



「次、は何、時だ……はっ、」



息が整わないまま時計を見て、時刻表に目を移す。



「さいあく、45分後じゃん」



寒い冬なのに、学校から走って来た身体は熱く、コートが要らないくらいだ。
マフラーと手袋を外して、ベンチに座った。


電車が行ったばかりのホームはがらんとして人の気配がない。


45分も電車を待つのかと思うと自然とため息が零れ落ちた。

そんな悪条件は重なるもので、今日に限って携帯を家に忘れた。


電車で約1時間、駅から自転車で20分の家。
今から帰れば家に着くのは門限を過ぎる。


門限が厳しいうちは連絡を入れなければいけない。だけど携帯がない。

辺りを見渡しても公衆電話は見当たらなかった。


このご時世、公衆電話なんてそうそうないよね。
今日はお父さんに怒られるの覚悟しなければ。


俯いて、そこで初めて肩に掛けたままの鞄を膝の上に置いた。