※※※※
「翠玉様、何をなさっているのですか」
いつもと変わらぬ何気ない阿坤の口調にも飛び上がりそうになりながら、翠玉は目の前の枝に薬玉を結んだ。鮮やかな紅い色の飾り紐は、房にあるものを真似て彼女自身が手ずから作ったものだった。
全く自分は謀(はかりごと)や駆け引きに向いていない、と思う。そう言えば常に感情的に真正面からぶつかってばかりな気がする。あまり自慢出来るものではないのは確かだ。
でも、今ばかりは適当にごまかさねばならない。
「この木、ちょうど私の房から見えるでしょう? ここに薬玉をかけておけば、外を見た時に眺められると思って。無病息災の厄払いですものね」
「雨風で汚れてしまうのでは……」
「大丈夫よ。枝葉が傘になってくれるし、しばらくは月も太っているわ。雨になりそうだったら取るから」
「それを仰るなら、月の周りが白むかどうかでしょう。春嵐が来ねば良いのですが」
「まあ、似たようなものよ」
上機嫌に言って紐を結び終えると、翠玉はさっさと踵を返して庭から房へと戻っていった。
──季鴬様、気づいてくれるかしら。
その日は何事もなく過ぎた。碩有が再び来る様になったというのもあり、始終庭を気にかけるわけにもいかなかったが、ふとした折にでも雨戸を叩く音でもないかと神経を研ぎ澄ませて反応を待った。
薬玉には細工がしてあって、手にとって眺めればすぐに中央に切れ目が入っているのがわかるだろう。そして中に文が入っているという事も。
お節介なのは百も承知、けれど時ある限り望みを繋ぐのもまた、生者の特権ではないだろうかという気がしている。
霊廟に参る日程が決まらないのか、碩有からはまだ何も具体的には言われなかった。一族に反対されているのかもしれない。
「……どうかしたのですか?」
耳をくすぐる声に逸れかけていた意識を戻し、翠玉は慌てて首を横に振った。
──小石を投げて返答がなければ、お取り込み中だと思うところだったわ。
来るなら宵も早いうちでないと、帰られてしまっては困るのだと思いながら。
「翠玉様、何をなさっているのですか」
いつもと変わらぬ何気ない阿坤の口調にも飛び上がりそうになりながら、翠玉は目の前の枝に薬玉を結んだ。鮮やかな紅い色の飾り紐は、房にあるものを真似て彼女自身が手ずから作ったものだった。
全く自分は謀(はかりごと)や駆け引きに向いていない、と思う。そう言えば常に感情的に真正面からぶつかってばかりな気がする。あまり自慢出来るものではないのは確かだ。
でも、今ばかりは適当にごまかさねばならない。
「この木、ちょうど私の房から見えるでしょう? ここに薬玉をかけておけば、外を見た時に眺められると思って。無病息災の厄払いですものね」
「雨風で汚れてしまうのでは……」
「大丈夫よ。枝葉が傘になってくれるし、しばらくは月も太っているわ。雨になりそうだったら取るから」
「それを仰るなら、月の周りが白むかどうかでしょう。春嵐が来ねば良いのですが」
「まあ、似たようなものよ」
上機嫌に言って紐を結び終えると、翠玉はさっさと踵を返して庭から房へと戻っていった。
──季鴬様、気づいてくれるかしら。
その日は何事もなく過ぎた。碩有が再び来る様になったというのもあり、始終庭を気にかけるわけにもいかなかったが、ふとした折にでも雨戸を叩く音でもないかと神経を研ぎ澄ませて反応を待った。
薬玉には細工がしてあって、手にとって眺めればすぐに中央に切れ目が入っているのがわかるだろう。そして中に文が入っているという事も。
お節介なのは百も承知、けれど時ある限り望みを繋ぐのもまた、生者の特権ではないだろうかという気がしている。
霊廟に参る日程が決まらないのか、碩有からはまだ何も具体的には言われなかった。一族に反対されているのかもしれない。
「……どうかしたのですか?」
耳をくすぐる声に逸れかけていた意識を戻し、翠玉は慌てて首を横に振った。
──小石を投げて返答がなければ、お取り込み中だと思うところだったわ。
来るなら宵も早いうちでないと、帰られてしまっては困るのだと思いながら。

