六天楼の宝珠〜亘娥編〜

 此処には自分を慰めるものが庭の木々しか存在しない。あんな人工的に植えられた生命を愛でろと言うのか。憤りは募るばかりだった。

 陶家の次期当主慎文は一人息子で、元々係累の寡(すくな)い一族だという。

 多産で知られる鄭家の血筋を迎える理由はわかりきっていた。季鴬自身も、夫人はそうあるものだと教えられていたのだ。子を生し、出来るだけ多く育てる。それだけの役目だ。

 故にこそ不満に耐えかねたのは、慎文に側室が多い事だった。

 「父親の戴剋様程ではないが、血は争えぬ」と、家人の口の端に上るだけでも両手に余る側室を持ち、全てに平等に寵愛を分け与えているという。

 それは困ると思った。

 側室に割く時間の分だけ、自分が跡継ぎを設ける可能性が減るではないか。これでは何の為に生国を離れたのかわからない、と。

「側室の方に通うのを、せめて世継ぎが出来るまで控えてもらえませんか」

 臆面もなく夫に申し出られたのは、ひとえに愛情がない事の証だったが、本人はまるで気づかなかった。いつも細やかな気遣いを見せ愛想の良い慎文はからかう様に、

「貴方の言葉が嫉妬から出ているのならば言う通りにもしようが、そうでない以上は聞けないな。彼女達の方がよほど私を必要としてくれるからね」

 と全く取り合わない。

「良いのかしら。世継ぎを必要としているのは、私ではなく陶家でしょう?」

 年上でしかも夫という目上の立場であるにも関わらず、季鴬はいつも彼に対してそんな態度だった。この優雅な魅力を振りまく青年は、何故かいるだけで彼女の苛立ちを誘うからだ。

 自分には許されない自由を持っているからだろうか。気ままに好きなだけ、行きたい所に行けるという。