恭治の睨みで一瞬固まっていた人々も、そそくさとまた足を動かし始めた。
それと合わせてまた前を向いた恭治が足を動かし始める。
どこに行くのだろう。
俺の知らない道をどんどん進んでいく。
いつの間にか、あたりは街灯だけで人通りのない暗い道になっていた。
少しずつ不安になってきた俺は、沈黙の中意を決したように口を開いた。
「何処に行くんだ?」
「…俺ん家」
数秒の沈黙の後、恭治は短くそう答えた。
恭治の家?
「何で、お前ん家?」
そう訊ねる俺に、はあと大きなため息を着いたあと恭治は少し照れくさそうに呟いた。
「血ぃ出てるし、お前ん家分かんねぇし…そのなんだ…殴ったのを、謝り…たかったていうか」
モソモソとそういう恭治は、やっぱり噂とは全く違っていた。
それが妙に可笑しくて、俺は声を上げて笑った。
悪い奴じゃない。
それは、保健室に来たあのときからわかっていたけど、これで確信した事だった。


