「あ゙?」
ボソリと呟いた私の声に顔を歪ませた男の低い声で我に返る。
「す、すいません!あと、ありがとうございました!」
「おい、待てっ!」
そのまま慌ただしく頭を下げて全速力で予備校まで走る。
途中であの男の引き留める声が聞こえたけど、聞こえないフリをしてがむしゃらに走った。
「本当に今日、ついてないっ!」
叫びながら走る私を周りの人がチラチラと怪訝な目で見て通りすぎていく。
そんなのも関係なく走っている私の頭にはさっきの赤色の髪をした男が貼り付いて離れなかった。
あの、真っ赤な原色の絵の具を塗りたくったような髪の毛。
私は、この時思ってもいなかった。
あの燃える炎のような髪の男にもう一度、出逢う事を。
ましてや、その男が私の人生を大きく変える事になるとは…。
…これが私、白兎稚春と赤い狼、大狼隼人との出逢いだった──――