赤い狼 壱






いつだったかアイツは女に椅子を投げつけて怪我を負わせた事がある。


まぁ、それは相手の女も悪かったわけだが。怪我させたのは事実で。



だからもしかしたら今回も…、という事もあり得る。


連に限ってそれはもうしねぇだろうと思ってるが、しねぇという確証もねぇから不安になる。



蒸し暑い建物の中、やっと階段を登り終えて部屋の前に立つ。



部屋からはギャアギャアとうるせぇ声が聞こえてきた。


やっぱり連と稚春に何かあったのか?




「お前、速すぎだって。追い付くのに苦労する。」



「い~い運動になったじゃねぇか。これで5キロは痩せた気がしねぇでもねぇな。」



「結局どっちなの~?」




ドアを開けようとドアノブに手を掛けた瞬間に、聞こえてきた背後からの声に驚いて振り向く。




「な~んか面白ぇ事になってるらしいぞ。連と稚春っつー女。」




そんな俺の顔を見た銀がゆるゆると口角を上げて楽しそうにそう呟いた。



面白ぇ事?何だそれ。




意味の分からねぇ銀の言葉に疑問を浮かべる。



何を言ってんだコイツは。とドアノブを握ったまま固まっていると奏が俺の手ごとドアノブをひねった。