赤い狼 壱






連もわりぃ、と心の中で謝りながら《SINE》を急いで出て、あらかじめ用意されていた車に乗り込む。




「頼む。」



「はい。……また、奏さん暴れてるんスか?」




車を動かせながら俺の様子を窺うようにして聞いてくる運転手に視線を向ける。




「あぁ。いっぺんシメねぇと分かんねぇみてぇでよ、今からシメに行く。」



「奏さん、それで暫くは大人しくなればいいっスね。」



「いや、アイツの事だからまたすぐ暴れんじゃねぇ?」




アイツが大人しいとかあり得ねぇ。大人しくしてても今の奏は《SINE》の一階を半壊させそうな勢いがあるからな。




「……、懲りない男ですね。奏さんは。」



「あぁ、本当にな。」




眉を垂れさせて困ったように笑う運転手に苦笑いをみせる。




やっぱりお前もそう思うか。って、俺も人の事言えねぇ立場なんだけどよ、本当は。



この前、稚春と初めて逢った時を記憶から掘り起こす。

俺も、あん時スゲェ暴れてたな。



目の前で喧嘩を見た稚春はさぜかし怖かっただろう、と眉間に皺を寄せる。



そろそろ、俺も大人になんねぇとな…。



静かに揺れる車の中そんな事を思いながら、ゆっくりと目を閉じた。