必死に声を上げる達也に、零は呆れたようにため息を吐きまたタバコを吸いだした。
「願いを叶えられるのは神ではなく俺達だ。それに、お前は初めから命を二つ持っているのか?」
「持ってたら、こんなお願いはしないよ」
「そうだろう。人の命は一つだと決まっている。それは神でも変えられない現実だ」
「……」
人の命が一つなのは分かってる。どうにもならないって分かってるけど、心の奥底でどうにか出来ないかと足掻いている。
「お前のような願いを毎回叶えていれば、この世は人で溢れ返る。そうなれば、世界は滅びるぞ。生と死があるから、この世の調和は保たれるんだ」
「分かってる…」
「他に願いは?」
「今はない…」
俺の願いは叶えられない願いだ。
「なら、さっそく手伝ってもらう。付いて来い」
そして零は廊下を歩いて行く。
達也も諦めて付いて行こうとしたが、その前に一度だけ家族と恋人のいる病室を振り返った。
「ごめん…」
大きな悲しみだけを残して達也は病院を出た。