「さてと、もうほとんど運び終わったな」
「はい、あの……洋太さん?」
「うん、何?」
甲斐洋太と名乗った男に、沙帆はゆっくりと近寄った。洋太は不思議な気持ちになる。
「あの、運ぶの手伝ってもらってありがとうございました。それから一緒に暮らすというのは具体的には一体……」
驚いていたわりにはなかなか冷静だなと洋太は思った。洋太は沙帆に冷たい麦茶を勧め、話し始めた。
「親父さんがあんたのことを心配してるんだよ。どうやら俺を信用してくれているみたいだ」
「あの」
沙帆が神妙な顔をしている。
確かに急に見ず知らずの男と暮らすのは嫌だよなと洋太は思った。
「あんたじゃないですっ、沙帆ですっ」
「……」
この時洋太は、沙帆の父親が心配性である理由と原因が理解できたような気がした。
ふわふわして足下がおぼつかない感じの子だということを、彼女の父親から聞いていたのだ。

